心は通じる

私が助産学生だった頃、実習病院でお産に立ち会った時の話です。

その産婦さんは関東からの里帰り出産で、お産になったらご主人さんが病院に来られることになっていました。ちょうどお昼間のお産だったので、陣痛が始まったらご主人さんに連絡をされました。

ご主人さんはすぐに仕事の手を置かれてこちらに新幹線で向かわれたようでしたが、その方は経産婦さんで2回目のお産で陣痛は順調に進み、ご主人さんを待つ暇もなく分娩室に入られました。

「今頃大阪辺りを来られているかね」「もう間に合わないだろうね」と話していましたが、赤ちゃんはそこまで下りていているのに、なかなか生まれない。更に時間は経過して「もう広島あたり?」「新山口駅に着かれたかな?」「タクシーで病院に向かっておられるそうよ」そうこうしているうちに分娩室のドアが開いてご主人さんが入って来られました。そしてその10分後、無事に元気な赤ちゃんが産まれました!

陣痛というのはとてもとても我慢できるものではなく、特に生まれる直前なんて1分でも早く産んでしまいたい、陣痛から逃れたい、と思うものです。その産婦さん「少しでも早く産みたい」と言っておられました。旦那の立会いなんて、もうどうでもよくなりますから(笑)

だけど、赤ちゃんはすぐそこに見えるのに生まれない。産婦さんも頑張っておられるのに。どんなに頑張ってもなかなか生まれなかった赤ちゃんが、旦那さんが到着とほぼ同時に生まれるなんて、私には「赤ちゃんがパパを待っていた」としか思えませんでした。

そういうことに医学的根拠、科学的根拠はもちろんありません。でも就職して病院でのお産にもたくさん立ち会わせていただきましたが、そういう理屈では説明できないことに多々出会いました。

「赤ちゃんは聞いている」「赤ちゃんにパパやママの思いは伝わる」

純真無垢な赤ちゃんであるからこそ、心はピュアに伝わるのではないかと思っています。

「まだ何も分からないから」「言葉が分からないし話せないから」などなど、そんなことはありません。いつの時も赤ちゃん、お腹の中の赤ちゃんには「一人の人格を持った人間」として接していくことを、私は心がけています。